周辺国が一触即発状態に。南シナ海の現在を読みほどく

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2015年末にアメリカのイージス駆逐艦が中国が領有権を主張する人工島の近隣を航海したことが話題となりました。
なぜアメリカはこの時期にこのような行動を取ったのでしょうか。今回は近年激化の一途をたどっている南シナ海の領有権争いと、政治・経済に与える影響について見てみましょう。

南シナ海の概略

南シナ海は緯度0度から北緯23度付近にかけての香港、中国、台湾、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアに囲まれた熱帯・亜熱帯の海域を指します。地理的に見ると時計回りにフィリピン諸島、ボルネオ島、インドネシア諸島とマレーシア半島に囲まれた内海であり、南西部のマレーシア半島東方付近では大陸棚が広く発達していて水深200m以下となっています。
フィリピン諸島東部の海域の水深は深く、特にルソン島北西沖には最深部が5,000mにもなるマニラ海溝があります。太平洋とは主に台湾島やフィリピン諸島、カリマンタン島などで区切られており、海上交通の要所として知られるバシー海峡をはじめとするごく限られた海峡で結ばれているに過ぎません。南シナ海の海域内における大きな島は中国の領土である海南(ハイナン)島が最も大きい島として知られています。海南島を除いては居住可能な大きさを持つ島や諸島は確認されていませんが、サンゴ礁まで含めると中小の島嶼(とうしょ)は数多くあります。
特に知られている諸島としては、南海諸島、南沙(スプラトリー)諸島、中沙諸島、西沙(パラセル)諸島、東沙諸島)、南ナトゥナ諸島、アナンバス諸島などがあり、周辺各国の間で激しい領有権争いが行われています。
また、各国が領有を主張している大陸棚では、豊富な埋蔵量が確認されている石油と天然ガスが採掘されています。

各国が南シナ海をめぐって争う理由はなにか

南シナ海は太平洋と接続するバシー海峡をはじめとして周辺諸国や貿易国家には欠かせない海上交通路が収束する交通の要所として知られていましたが、かつては現在のように周辺諸国同士の島嶼(とうしょ)をめぐる領有権争いはそれほど激しくありませんでした。現在のように領有権問題がクローズアップされるようになった大きな理由としては、1970年代に相次いで発見され、90年代に入ると需要と採掘が急増した油田やガス田、鉱物資源をはじめとする海底資源があげられます。
東アジア諸国が急速な経済成長を遂げるにつれて、各国のエネルギー需要も急増したため、豊富な埋蔵量が期待されている南シナ海の油田やガス田は南シナ海を囲む各国の注目を集めることとなります。南シナ海の海底資源は豊富な埋蔵量が期待されているものの、各国の領有権争いにより十分な試掘が進んでおらず、発見から半世紀ちかく経った現在でも十分なデータがないため、その全容は判明していません。

それでも信頼の置ける調査データはいくつか発表されていて、中でもスーパーメジャーとして知られるBP(British Petroleum)社が発表している最新のエネルギー統計によると、全世界で確認されている原油埋蔵量1兆7千億バーレルのうち、南シナ海を含むアジア地域で確認されている原油埋蔵量は1割程度(20億バーレル)を占めていて、未確認分も含めると「第2のペルシャ湾」と呼ばれるほどの埋蔵量が期待されています。

更に南シナ海では原油や天然ガスだけではなく、新しい燃料資源として期待されているメタンハイドレードや鉱物資源の産出も期待されているため、領有権を握れるかどうかは経済成長が著しい南シナ海の周辺諸国にとって死活的な問題であるため、領有権争いを行なっているのです。

各国の主張する領土と排他的経済水域

未確認分も含めると膨大な埋蔵量が期待される各種資源を確保するために、各国は南シナ海に散在している小島やサンゴ礁の領有権とそれに付随する広大なEEZ(Exclusive Economic Zone = 排他的経済水域)を主張し、激しい領有権争いを繰り広げています。
ちなみにEEZとは、国連海洋法条約に基づいて設定された天然資源と自然エネルギーに関する「主権的権利」、並びに人工島・施設の設置、環境保護・保全、海洋科学調査に関する「管轄権」がおよぶ水域のことを言い、自国の主権が及ぶ範囲であり、各種法律が適用される「領海」とは定義が異なることに注意が必要です。

南シナ海で領有権争いを起こしている国としては中国が知られていますが、中国以外にも南シナ海を囲む複数の国がそれぞれ隣接する国に対して領有権を主張しているために、南シナ海の領有権争いは複雑に入り組み、解決の目処を立てるのが著しく難しいのが現状です。南シナ海の主要な諸島や港湾、その領有権を主張している国をまとめました。

  • 南沙(スプラトリー)諸島…中華民国(台湾)、フィリピン、南ベトナム(ベトナム)、中国、ブルネイ、マレーシア
  • 西沙(パラセル)諸島…中国、中華民国(台湾)、ベトナム
  • トンキン湾…ベトナム、中国
  • タイ湾…タイ、ベトナム、マレーシア、カンボジア
  • 東ボルネオ沖…インドネシア、マレーシア

中国の台頭と米国による「航行の自由(FON = Freedom of Navigation)」作戦

日本国内で領有権争いというと、沖縄県の尖閣諸島や島根県の竹島をめぐるものが知られていますが、国際社会で注目を集めているのは中国の積極的な南シナ海進出です。
なぜ中国は南シナ海進出を急いでいるのでしょうか。

最も有力な理由として考えられているのは、先にも触れたように未確認分も含めると豊富な埋蔵量が期待されている海底資源の占有です。南シナ海を占有することに成功すれば、中国が現在保有する水準をはるかに超える資源を確保することとなり、国内消費量の急増によって危うくなりつつあるエネルギー安全保障と独立性を獲得することが期待できます。
また、インド洋と太平洋をつなぐマラッカ海峡と太平洋と接続するバシー海峡に挟まれている南シナ海は、中国や日本、東南アジア諸国のエネルギー輸送の大動脈です。南シナ海を占有できれば、これらの国々に対して圧倒的に優位に立てるだけではなく、中国の本土防衛と海洋進出を兼ねる構想である「列島線」の実現に向けて、大きく前進することにもなります。

もちろん、このような強硬な姿勢は周辺国だけではなく、アメリカも刺激することとなります。東南アジア諸国間による領有権争いであれば当事者間の紛争であっても地域紛争だけで済むため、アメリカも静観していました。
しかしアメリカに次ぐ経済規模を持つ中国が積極的な海洋進出の意図を持って領有権争いに参加してきたとなれば、アメリカの将来の海洋支配にも影響しかねません。
そのため、中国による南シナ海への人工島建設が確認された2015年後半に入ると、示威行為の一環として国際的に領海として認められる人工島の沖合い12カイリ(約22キロ)圏内を自国の最新鋭戦闘艦による航行や哨戒機による飛行などを行い、冒頭にも触れたように2015年10月には「航行の自由」作戦と名付けたイージス駆逐艦による哨戒航行を行うなど、米中両国による南シナ海の占有をめぐる争いはエスカレートしています。

南シナ海をめぐる日本の反応

このように南シナ海の占有をめぐる米中両国の挑発合戦はエスカレートしていますが、アメリカの同盟国である日本はどのような対応をしているのでしょうか。日本は東シナ海のガス田問題や尖閣諸島の領有権問題で争っているため、中国による南シナ海への強引な進出には反対する立場を取っています。そのため、中国と領有権争いを行なっている東南アジア諸国に対して巡視艇の輸出や教育機関創設の支援をはじめとする海上保安のための様々な協力を行なうだけではなく、武器輸出三原則の改正により解禁された自衛隊の中古装備の輸出も検討しているとの報道もあります。

おわりに

このように中国の強引な進出にともない、南シナ海の領有権争いは激化の一途を辿り、現在では中東に次ぐ危険地帯と言っても過言ではない状況にあります。
しかし未確認分も含めると期待される海底資源の埋蔵量は膨大なものがあり、周辺国との関係を悪化させても確保するだけの魅力があることも事実です。今後の南シナ海は見通しは明るくありませんが、アメリカと中国のどちらが占有することになっても対応できる投資戦略を立てておいて損はない地域であると言えます。

関連サイト

防衛省
外務省